能面の魅力

 中年の女面、髪の乱れたおくれ毛と白目と歯先の金泥を塗っているところに鬼神の性格をもった面であることがわかる。
 泥眼は怖いだけでは駄目で、品格がなかったら能面にならない。特に目と口が難しい。口の彫り方一つで、下品になる。いやしくならないように、そして上品にすぎないように。あとで般若になるので恨みも持たせなければならない。


 演者によって命が吹き込まれること、観客が投影する心情による効果は大きいですが、実は、能面の「曖昧な表情」や「非対称な作り」にも秘密がある。
 この「曖昧な表情」は「中間表情」などと呼ばれることもあるが、おそらくはあらゆる「表情の元」を少しずつ備えているのではないかと言われている。これが演者の表現と結びつくことで多様な表情が浮かび上がってくる。
 

 能面は左右が「非対称な作り」になっている。その違いは「陰と陽」とも呼ばれている。左右非対称に作られている女面。左右で目尻や口角の向きなど見比べてみると、あからさまな違いはないが、このわずかな差によって多様な表情が浮かび上がる。
 加えて、顔の上下の動きでも表情は変化する。能では、やや仰向けにすると高揚した様子(「照ル」という)、少しうつむくと陰りのある様子 (「曇ル」という) が表現される。ほんの少しの角度の違いで、喜びや幸福感、いじらしさや悲しみに暮れる様子、恥じらいや絶望など様々な表情を感じさせる。


 面をわずかに傾けるだけでも表情が変化する。少し険しい表情や無表情に見える能面に何か不気味さや怖さを感じている方は、ぜひ一度、能舞台の上で能楽師の顔にかかった能面を実際に見てほしい。
 畏怖の念を抱くことはあるかもしれないが、演者と一体になった能面からは、生きた多様な表情をきっと受け取ることができるだろう。(清野正雄著「道ひとすじ」より)

写真は、清野正雄著 能面特集「道ひとすじ」
写真は、清野正雄著 能面特集「道ひとすじ」

 

 

 私が能面を打つことになったきっかけは、清野正雄師匠の能面特集冊子「道ひとすじ」制作(1,000冊)を依頼されたのか動機。能面の素晴らしさ魅力が分かったので、ある日冗談に、「私も能面を打ってみようかな」と言ったら、ノミや道具を一式もらったのでやる羽目になった。

 

 清野正雄師匠は、約20年間で総計約450面を打っているすごい人物。

 

 私はというと、能面を2021年12月から打ち始めまだ四ヶ月も経っていないので、愚作だらけの面なのですがご覧下さい。

 今ではすっかり「能面打ち」にはまってしまい、やりすぎて腱鞘炎になるほど取り憑かれてしまった。

 

自分の打った面に囲まれて、良い笑顔の清野正雄師匠。
自分の打った面に囲まれて、良い笑顔の清野正雄師匠。
現代能面美術展 金沢市 恵比寿 平成二十五年度 上位入選作品(清野正雄氏)
現代能面美術展 金沢市 恵比寿 平成二十五年度 上位入選作品(清野正雄氏)
能面制作中の清野正雄師匠
能面制作中の清野正雄師匠

私の打った「能面一覧」

翁(おきな) 2021年12月14日完成                  笑みを浮かべる老人の面。五穀(ごこく)豊穣(ほうじょう)、所(しょ)願(がん)成(じょう)就(じゅ)など幸いを寿(ことほ)ぐ翁舞に用いる。

邯鄲男(かんたんおとこ)2022日1月17日かんせい

小面 2022年2月4日完成                     「小」は可愛らしい若くて美しいという意味で、もっとも若い女の面である。

泥虎(でいこ) 2022年2月15日完成

 龍神とか龍をイメージした面は幾つかあるが、これは虎をイメージした面。泥虎というのは全面が金泥になっていることからの名称。
 

般若(はんにゃ) 2022年2月27日完成                 女性の怨霊を表現する面 恨みの復習の敵愾心を芸術化したもの。

石王尉(いしおうじょう) 2022年3月8日完成             舞尉の中の小名、石王兵衛の作と謂れ、自分の名から石王尉と名づけたという。舞いを舞う老人の面。柔和な舞尉の表情に比べ、苦みばしった顔である。

山姥(やまんば) 2022年3月14日完成                 山姥は一人山奥に棲み、居を定めずに山岳や谷を歩きまわる鬼女。害をなす鬼ではなく、大自然を包含する人間を超えた存在である。

俊寛完成(2022年4月15日) 俊寛は、平清盛に謀反の罪で島流しにあった。恩赦で仲間は許されたが、俊寛だけは許されなかった。船に乗せてくれと泣き叫けんだが1人取り残された。 娘の手紙を受け取った俊寛は、このまま生きながらえても娘に迷惑をかけると、死を決意して、食を断ち自害したという。

創作面 ピエロ 2022年5月13日 完成

小癋見(こべしみ) 2022年5月27日完成

能面の一つ。癋見の一種で、地獄の鬼神を表わし「皇帝」「昭君」「鵜飼」などの後シテに用いる。こべし。こべっし。

童子(どうじ) 2022年6月7日完成

少年の面である。露を飲んで仙人となり その永遠の若さを今に象徴する神仙の化身といわれている。どことなく優雅でしかも妖精的な神秘性が感じられる。

老女(ろうじょ) 2022年6月10日完成

老女は年老いた女性で、庶民的な表情で表される。さまざまな演目に登場する老女に用いられるため。その表情はさまざまである。